美容師の個人事業主とは?雇用との違い・開業届・税金を解説

2022.04.13

「個人事業主として働くって、結局お店を持つということ?」——結論から言うと、美容師が個人事業主になるとは、税務署に開業届を提出して自分の名前で仕事をすることであり、自分のお店を持つ必要はありません。実際、当社に独立の相談・見学に来た方のうち、将来的な自店舗の出店を予定していない人が約6割を占めます(当社調べ)。シェアサロン・面貸し・業務委託といった、店舗を持たずに個人事業主として働く形が広がっているためです。雇用されて働くのと比べて変わるのは、大きく①保険と年金 ②税金の納め方 ③収入の決まり方の3点です。この記事では、個人事業主の定義、雇用との違い、開業届などの手続きと退職日からの逆算スケジュール、そして節税までをまとめて解説します。

個人事業主とは?(美容師の場合)

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人のことです。税務署に開業届を提出することで、個人事業主として働くことができます。「フリーランス」は働き方を指す言葉で、税務上の区分としては個人事業主として扱われるのが一般的です。

美容師の場合、個人事業主になる方法は「自分の店舗を開業する」だけではありません。特定のサロンに雇われるのではなく、シェアサロンや業務委託、面貸しという形で働くこともできます。これらは初期費用を抑えて開業できるので、個人事業主になりたての方が選びやすい働き方です(違いはフリーランス美容師の働き方3種類で比較できます)。

個人事業主として働くと時間を自由に使えます。その反面、技術の提供だけでなく、経営を回すマネジメント力や集客力も必要になります。

個人事業主になる=自分の店を持つこと、ではない

「独立」と聞くと自分の店を構えることを思い浮かべますが、実際に独立を検討している人の内訳は違います。当社に独立の相談・見学に来て対応が完了した364人に、将来的な出店予定を聞いた結果は次のとおりです。

将来的な自店舗の出店予定 割合
出店予定はない(店舗を持たずに個人事業主として働く前提) 58.8%
出店予定がある 36.0%
すでに出店している 5.8%

(当社調べ/独立の相談・見学に来て対応が完了した364人・複数回答のため合計は100%を超えます)

つまり独立を考えている人の多数派は、将来的な出店を予定していません。物件契約・内装工事・美容所登録といった開業のハードルを越えずに、開業届1枚から個人事業主として始める道が現実的な選択肢になっているということです。一方で出店予定がある人も3割強いるため、「まずは店舗を持たない形で個人事業主として始め、資金と顧客が固まってから出店する」という順序で考える人が多いと読めます。

雇用(正社員)と個人事業主で変わる6つのこと

個人事業主になると具体的に何が変わるのか、雇用されて働く場合と並べて整理します。

項目 雇用(正社員) 個人事業主
収入の決まり方 毎月ほぼ固定の給与 売上から利用料・経費を引いた残りが収入(月ごとに変動)
健康保険 健康保険(保険料は会社と本人で分担) 国民健康保険(全額自己負担・保険料は市区町村ごとに異なる)
年金 厚生年金 国民年金(上乗せは付加年金・iDeCo等を自分で選ぶ)
税金 給与から源泉徴収・年末調整 自分で確定申告して納付(所得税・住民税・場合により消費税)
経費 基本的に会社負担 材料費・交通費などを自分で払い、経費として売上から差し引ける
労働時間・休日 就業規則に従う 自分で決める(労働基準法の労働時間規制の対象外)

ポイントは、手取りが増えるかどうかは「売上が同じでも制度の違いで変わる」ということです。会社が負担していた保険料を自分で払う分だけ支出は増えますが、経費計上と青色申告控除で課税所得を下げられます。自分の客単価・客数だとどうなるかは手取りシミュレーションフリーランス美容師の収入の実態で試算してください。

美容師が個人事業主になるための手続きについて

個人事業主として働くために必要な手続きがあります。当社の独自調査では、独立を検討する人の約半数が在職中に情報収集を始めています。退職してから慌てないよう、予めスケジュールを立てて余裕をもって準備しましょう。以下は開業前後に必要な手続きのチェックリストです(2026年7月時点。必要書類は自治体や税務署によって異なる場合があるため、提出先に確認してください)。

手続き 届出先 期限 主な必要書類
開業届(+青色申告承認申請書) 管轄の税務署 開業後1ヶ月以内(青色は原則開業から2ヶ月以内) 届出書、マイナンバーがわかるもの、本人確認書類
国民健康保険への切替 市区町村の窓口 退職日から14日以内 健康保険資格喪失証明書、マイナンバーカード、本人確認書類
国民年金への切替 市区町村の窓口 退職後14日以内 年金手帳(または基礎年金番号通知書)
美容所登録(自分で店舗を開く場合) 保健所 オープン前(事前相談を推奨) 開設届、施設の構造設備がわかる書類、美容師免許証、医師の診断書など
従事者登録(シェアサロン等で働く場合) 働く店舗(施設側が保健所へ届出) 契約時〜勤務開始前 美容師免許証、医師の健康診断書

個人事業の開業・廃業等届出書

はじめに、「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出が必須です。開業してから1か月以内に必ず提出するようにしましょう。この時、「青色申告承認申請書」も一緒に提出するといいでしょう。フリーランス美容師であれば白色申告よりもメリットの大きい「青色申告」をおすすめします。具体的な書き方は開業届の書き方(記入例付き)を参照してください。

国民健康保険

フリーランス美容師として働く際は、健康保険を「国民健康保険」に切り替えなければなりません。退職日から14日以内に市区町村の窓口で手続きできます(2026年7月時点)。保険料は前年の所得などをもとに計算され、市区町村ごとに金額が異なります。事前にこちらの3つを準備しておきましょう。

  • 健康保険資格喪失証明書(または退職証明書)
  • マイナンバーカード(通知カードなど番号が分かるもの)
  • 本人確認書類

国民年金

厚生年金に加入していない人は、国民年金に加入しなければなりません。退職後14日以内に市区町村の窓口で手続きできます(2026年7月時点)。「年金手帳(または基礎年金番号通知書)」を準備していきましょう。保険料は定額制で毎年度見直されるため、最新額や付加年金などの上乗せ制度は市区町村の窓口や年金事務所で確認してください。

美容所登録

店舗をオープンする場合は保健所に「開設届」を提出し「美容所登録」が必要です。保健所が定めた構造設備などについて、基準を満たしているか検査を受けて合格する必要があります。一般的に、シェアサロンや面貸しで働く場合は店舗側が美容所登録を済ませていることが多いですが、登録の有無や名義は契約前に必ず確認しましょう。

当社(GO TODAY SHAiRE SALON)では、美容所登録はすべて施設側で完了しており、利用者が自分で保健所に開設届を出す必要はありません(2026年7月時点)。利用者は次に説明する「従事者」として登録される形になります。見学の際は「美容所登録の名義はどこか」「従事者登録にどんな書類が必要か」「書類の有効期限はいつまでか」の3点を質問しておくと、契約後の手戻りを防げます。

従事者登録(シェアサロン等で働く場合)

見落とされがちですが、美容所で働く美容師は、開設者を通じて保健所に「従事者」として届け出る必要があります。自分の店舗を持たない場合でも、働く美容所ごとにこの手続きが発生します。

当社では、契約時に美容師免許証と医師の健康診断書(結核・伝染性皮膚疾患の有無が明記されたもの)を提出していただき、従事者登録の手続きは施設側で行います。健康診断書の有効期間は「発行から1〜3か月以内」など自治体によって差があるため、発行日と提出のタイミングに注意してください。手続き全体の流れはフリーランス美容師がやるべき5つの手続きにまとめています。

退職日から逆算する手続きスケジュール

期限は「退職日から」と「開業日から」で起点が違うため、日付で並べたほうが間違えません。3月31日に退職し、4月1日から個人事業主として働き始める場合を例に逆算すると次のようになります(2026年7月時点の期限。自治体や税務署によって扱いが異なる場合があります)。

時期 やること 提出先
2月末〜3月上旬(退職の1〜2ヶ月前) 在籍サロンへ退職を申し出る/お客様の引き継ぎ方を相談する 在籍サロン
3月上旬(契約の1ヶ月前以降) 健康診断書を取得する(有効期間が発行から1〜3か月以内のため早すぎると失効する) 医療機関
3月中(勤務開始前) 働く店舗と契約し、美容師免許証と健康診断書を提出(従事者登録は施設側が届出) 働く店舗
3月31日 退職。健康保険資格喪失証明書を受け取る 在籍サロン
4月1日〜4月14日(退職日から14日以内) 国民健康保険と国民年金に切り替える 市区町村の窓口
4月1日〜4月30日(開業から1ヶ月以内) 開業届を提出する 管轄の税務署
4月1日〜5月31日(開業から2ヶ月以内) 青色申告承認申請書を提出する(開業届と同時提出が確実) 管轄の税務署
翌年2月16日〜3月15日 初めての確定申告 管轄の税務署

この例で最も間に合わなくなりやすいのは健康診断書です。取得が早すぎると契約時に失効し、遅すぎると勤務開始日に間に合いません。契約日が決まった時点で、有効期間を店舗に確認してから予約するのが確実です。

手続きより先に決めておきたい、お客様と在籍サロンのこと

書類の期限は調べれば分かりますが、あとから取り返しがつきにくいのは人との関係のほうです。指名で来てくださっていたお客様は、あなたの技術だけでなく在籍サロンを選んで通っていた面もあります。退職を伝える順番(まず店長・オーナーへ、同僚やお客様へはその後)を守り、お客様への案内の仕方は在籍サロンと相談してから決めましょう。顧客情報の扱いや引き継ぎのルールは就業規則や契約で定められている場合があるため、自己判断で連絡先を持ち出さず、確認するのが安全です。

そして、育ててもらった期間への感謝は言葉にして伝えておくことをおすすめします。美容業界は狭く、材料の仕入れや人の紹介、困ったときの相談相手として前のサロンとの縁が後から効いてきます。円満に送り出してもらえると、独立後に困ったときも助けを求めやすくなります。

個人事業主に向いている人・向いていない人

向き不向きは性格よりも「引き受ける業務が増えることに納得できるか」で決まります。次の6項目のうち、いま自分がどれをできているかで判断してください。

確認すること できていれば向いている できていないと苦しくなる
指名客 自分を指名して来るお客様が一定数いる 店舗の集客に依存しており、指名がほぼない
新規集客 SNSや紹介で自分から新規を取れている 集客は店舗の仕事だと考えている
お金の管理 売上と経費を月単位で把握する習慣がある 入金額しか見ておらず、収支を把握していない
価格設定 メニューと価格を自分で決める考えがある 価格は決められたものに従いたい
スケジュール管理 予約と休みを自分で組み立てられる シフトを組んでもらうほうが動きやすい
収入の変動 月ごとの売上変動を数ヶ月分の蓄えで受け止められる 毎月同額の入金がないと生活設計が崩れる

とくに重いのは新規集客とお金の管理です。当社調べでは、シェアサロンを選んだ理由の最多は「自由な働き方ができる」で、次いで「場所や時間の制約が少ない」「初期費用や固定費を抑えられる」が続きます。自由と裏表の関係にある自己管理を引き受けられるかどうかが、向き・不向きの分かれ目と言えます。逆に、指名客がまだ少ない段階なら、集客サポートのある店舗を選ぶか、在籍しながら副業として開業届を出して助走をつける選び方もあります。

節税対策が大事

個人事業主になると、税金は給与から天引きされなくなります。つまり、自分の1年間の所得に応じた納税をしなければなりません。所得税は所得額が増えるほど納税額も増えるため、節税対策が大切になります。実際、当社のアイリスト向け社内アンケートでも、独立して最初につまずきやすいのは「確定申告・経費管理などのお金まわり」「メニューや価格を決めること」という声が多く挙がっています。技術より先にお金の管理でつまずくのが現場のリアルです。

課税負担を少なくするには、経費計上を上手く活用することが必要です。個人事業主は事業を行う上で必要な費用を「経費」として売上から差し引くことができます。主な例は次のとおりです。

  • 消耗品(シャンプー・カラー剤)
  • 交通費
  • 接待交際費(食事を伴った会議なども含まれます)
  • 研修費(セミナー・外部研修)
  • 宣伝広告費(チラシ作成)
  • 図書費(お客様用雑誌)

経費にできるものの詳細はフリーランス美容師の節税・経費一覧で解説しています。

青色申告を利用する

青色申告を利用できるのは、開業届とともに「青色申告承認申請書」を提出している方です。複式簿記で帳簿を付けたり、提出する書類が白色申告より多いのがデメリットですが、フリーランス美容師にとってはメリットの方が大きいのでおすすめです。

青色申告の主なメリットは次のとおりです。

  • 最大65万円の青色申告特別控除(10万円・55万円・65万円の3段階、65万円はe-Taxによる電子申告または優良な電子帳簿保存が条件。2026年7月時点)
  • 赤字を3年間繰り越せる
  • 家事関連費(事業で使う家賃・光熱費の事業分)を計上しやすい

なお、税制改正により2027年(令和9年)分以後は、e-Tax申告等を条件に青色申告特別控除が最大75万円へ引き上げられる予定です(2026年7月時点の公表情報)。控除の要件は年によって見直されるため、最新の適用条件は税務署や税理士に確認してください。

当社のシェアサロンを利用しているフリーランス美容師のHARUNAさんも、公式インタビューで「確定申告、体調管理、ブランディングをしっかりしていくことが大事」と語っています(HARUNAさんインタビュー)。数字の管理は面倒に感じられがちですが、独立後の生命線として早めに習慣化しましょう。

確定申告の具体的な手順は確定申告のやり方3ステップ、青色申告の詳細は確定申告の基本と節税をご覧ください。

よくある質問

個人事業主とフリーランスの違いは何ですか?

フリーランスは「特定の組織に雇われない働き方」を指す言葉で、個人事業主は「開業届を出して個人で事業を営む人」という税務上の区分です。フリーランス美容師の多くは、開業届を提出して個人事業主として活動します。

個人事業主になるには自分のお店を持つ必要がありますか?

必要ありません。開業届を提出すれば、シェアサロンや面貸しなど他の人が開設した美容所で働きながら個人事業主になれます。当社に独立の相談・見学に来た364人のうち、将来的な出店予定がない人が58.8%と多数派でした(当社調べ)。自分の店舗を開く場合のみ、保健所への開設届と美容所登録が必要になります。

雇用されて働くのと比べて何が変わりますか?

大きく3点です。①健康保険が国民健康保険に、年金が国民年金に変わり保険料が全額自己負担になる ②税金が源泉徴収から自分での確定申告に変わる ③収入が固定給から「売上から利用料と経費を引いた残り」に変わる、の3点です。材料費や交通費を経費として差し引ける点も雇用との違いです。

雇用のまま副業で個人事業主になれますか?

なれます。雇用されながら副業として開業届を出すことも可能です。ただし在籍サロンの就業規則で副業が認められているかの確認が必要です。詳しくは美容師の副業の記事を参照してください。

個人事業主になると収入は上がりますか?

働き方次第です。雇用と違い売上から利用料や経費を引いた残りがすべて自分の収入になるため、指名客が多い人ほど手元に残る金額は増えやすくなります。具体的な金額は手取りシミュレーションで試算できます。

開業届はいつまでに出せばいいですか?

開業日から1ヶ月以内です。青色申告を初年度から使う場合は「青色申告承認申請書」も原則開業から2ヶ月以内に提出します。国民健康保険と国民年金の切替は退職日から14日以内で起点が違うため、退職日を基準に逆算して並べておくと漏れません(2026年7月時点)。

美容師で個人事業主として働くために

美容師が個人事業主として働くということは、技術力だけでなく経営者としての責任感や経営力も必要になるということです。ただし、その入口に自分の店舗は必須ではありません。開業届を出して他の人が開設した美容所で働き始め、顧客と資金が固まってから出店を考える順序も選べます。まずは退職日を仮に置いて手続きを逆算し、働く場所を実際に見て確かめてください。独立までの全体像は独立・開業までの5ステップガイド、店舗を持たずに個人事業主として働ける場所は美容師(スタイリスト)向け店舗一覧で確認できます。

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